眠りの南

正座したまま一時間眠れる、そんな主婦の、読み書きと猫の日々

さっちゃん

 (眠って見た夢を素材に、短い小説)

 

 いいお天気だね、さっちゃん。あんなに青い空。

 このあたり全部、昔のままだね。田んぼも、原っぱも。

 

 さっちゃん、ほんとにモデルやめて、こっちに帰って来るの?

 そうかあ、うん、さっちゃんが決めたことだから、きっとそれが正解だよ。

 

 ね、私達の通った小学校のそばを通ろう。

 なつかしいね。校庭、もっとずっと広かったように思うんだけど変わってないんだよね。

 あ、校門の扉の上、白い小鳥が一列に並んでる。かわいい。静かに首をかしげてるよ。

 

 そこのお店で、いつもノートや消しゴム買ったね。おそろいで買ったね。

 あ、店の前。猫がいっぱいいる。黒い毛の子、白い毛の子、黒白の子。

 首輪してるね、飼い猫さんだね。

 みんな、黙って後ろをついて来るよ。ごめんね、食べるもの持ってないの。

 さあ、おうちにお帰り。

 

 もうすぐ私の家に着くよって、知ってるよね、数えきれないぐらい、遊びに来たものね。

 隣の家、犬飼い始めたの。黒い犬。吠えるから驚かないで。

 あれ、今日は吠えないね。じっとこっちを見てるよ。どうしたのかなあ。

 

 さあ着いた。変わってないでしょ、古い引き戸も。

 「お母さん、さっちゃんが帰って来たよ。もうずっと、こっちにいるんだって。」

 

 私の部屋へ行こう。

 狭い階段のままなの、気をつけてね、とんとん。

 

 アルバム見ましょ。

 小学校の時、中学校の時、高校の時。

 十二年間も、ずっと、いつも一緒だったね。

 

 さっちゃんがこっちに帰って来てくれたのに、今度は私が、都会よりもずっと遠い所に行くの。

 手紙もね、届かないのよ。

 でもね、にっこりしたらわかるから。

 私、いっぱいにっこりするから、さっちゃんもしてね。

 

 今日が、いいお天気で良かった。

 私、なんだか、空気よりも軽いみたい。

 それでもって、目の前がきらきらするよ。

 

 それじゃあね、さっちゃん。

 にっこりだよ、にっこり。