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眠りの南

正座したまま一時間眠れる、そんな主婦の、読み書きと猫の日々

長い旅

 (眠って見た夢を素材に、短い小説)

 

 北側の窓から見る草原は、初夏の陽を浴びて、まばゆい程に輝いている。

 そのずっと向こうには、東西に延びた道がある。

 その道を東から来て、途中で南に折れて、車は帰って来る。

 パパとママが帰って来る。

 私は、広い階段を下り、長い廊下を走り、玄関を目指す。

 「お嬢様!」

 お手伝いさんたちが何か言ってるけど、気にしない。

 だって、もうすぐ、もうすぐ、パパとママが……

 暗い。玄関、暗いね。

 両開きのドアが開いていて、そこから見える庭も、夜のように暗い。

 なぜ?

 

 私の目に、また光があふれる。

 「良かった。」

 言ったのは、私ではなかった。

 横たわる私を見下ろす少年が一人。

 びっくりして飛び起きる。

 この部屋は、どこだろう。灰色の壁と床。

 寝ていたのは、誰のベッド?白いシーツ。

 「ほんと、薬の効きがいいよね。毎回、今度こそ起きないんじゃないかと心配だよ。」

 何を言ってるの。

 「パパ、ママ!」

 私はベッドから飛び降り、黒い金属でできたようなドアへと駆け出す。

 「落ち着けよ!」

 少年が私の肩を掴む。

 頭を振って目に入った姿見に映る私は、さっきの私より、十は年上のようだった。

 「まったく、毎回これなんだから。」

少年が、呆れたように、少し怒ったように言う。

 私、は。

 ああ、私は……

 冷たい床に座り込む。 

 「思い出した?」

 少年に問われ、私は頷く。

 私達は、二人で旅をしているんだった。

 長い、長い旅。

 窓の外は暗い宇宙。

 地球を出て、どれぐらい経つ?

 私たちが、人類の中から選ばれたことは告げられた。

 地球を治める王から託された書状。それを渡すために目指す星。

 そこまで、あまりに長い旅が続くから、薬で眠りながらでないと、とても耐えられないこと。

 眠り薬が効きすぎて目覚めないと死んでしまう。どちらかが眠っている時、片方は眠らずにいて、起きない相手を起こさないといけないこと。

 「僕の番だから寝るね。」

 少年は、私の寝ていたベッドの置かれた側とは反対の壁際のベッドに横たわり、毛布を体に掛ける。

 そばの小さな机の上には、水の入ったコップと、薬の白い箱。いつの間に薬を飲んだのか。

 彼は、百年は起きない。私は孤独。

 

 百年!?

 そんな、それこそ死んでしまう!

 「起きて!そんなに眠ったら死んじゃう!」

 すがりつく私に、少年は目を開けずに言う。

「死ぬわけないだろ、夢なんだから。」

 

 それから一秒もなく、私達が宇宙を旅していたはずの船は、しゅるしゅるとほどけ、無数の糸となり、散ったのでした。

 それでも私は、大きく息をして、悲しいでも怖いでもなく、ゆうゆうと星々をかすめ、泳いで行くのでした。